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高見山(元東関親方)と牧野氏 徳之島出身の旭道山
平成22年7月25日(日)
外国人力士はなぜ日本語がうまい! 牧野三佐男氏特別寄稿
郷土出身「朝の海」「旭道山」は外国人力士の日本語教育の先駆者
日本では、中学・高校と6年間も英語教育をしているが、英会話が苦手な人が多い。 学習能力、教育程度は一流なのに、英会話の能力で各国の後塵を拝する要因は一体なんだろうか。 
長年外国語教育に携わっている牧野三佐男氏(国際教育博士)からその答えを導くようなレポートが届いたので紹介します。

はじめに
 みなさんも外国人力士が本場所で上位力士に勝ったり、金星を取って、インタビューを受けて流暢な日本語で受け答えをしている場面を何度か見たことがあると思う。どうして彼らは日本語がうまいのであろうかと考えた人も沢山いると思う。その答えを見つけるために関係者に話しを聞く事にし、またアメリカの大学へ留学した日本人留学生が英会話で苦労しているのを見て来たこと、また長年大学の教職課程で中学、高校の英語教師になる学生を対象に英語教育をして来たことなど専門分野と共通点が多い事など、特に私の専門分野でもある「外国語教授法と異文化間コミュニケーション論」のことが重なって「外国人力士の日本語学習法」に大変興味を持ち、外国人力士の日本語習得法を大学の英会話教育に応用出来ないかと思い奄美に縁の深い「高砂部屋」と「大島部屋」の外国人力士を中心に研究調査をする事にした。

人間は、生まれながらにして言語習得(母語習得/外国語学習)の四技能(Four Skills)を備えており、1. 聞く能力(Listening/Hearing), 2. 話す能力(Speaking), 3. 読む能力(Reading), 4. 書く能力(Writing) を身に付けて行くのである 。このうち聞くことと読むことは理解力であり、話すことと書くことは表現力である。これらの能力は、密接につながっているが、性質を異にする点も多い。それゆえ、聞く能力を伸ばすためには聞く訓練が、書く能力を伸ばすためには書く訓練が行なわれなければならない。読む能力を伸ばすことによって聞く能力が大きく伸びることを期待することはできない。話す訓練をしなければ話す能力は伸びない。日本語の基礎的な能力を伸ばすためには、これらの四つの能力のいずれも無視することなく、均等に伸ばすように気を付けねばならない。

日本語習得のための特殊な環境
 外国人力士たちは、親方やおかみさんだけではなく、部屋全体の日本語しか通じない環境と特に兄弟子は,稽古やふだんの生活の中で、親方やおかみさんの目の届かないところを補って指導する役割を果たしている。 おかみさんとのつながりはもちろん強いが、外国人力士たちが一日のうちでもっとも長い時間いっしょにすごすのは兄弟子なのである。それこそ二十四時間、稽古、ちゃんこ、寝起きに至るまで共にするのはもちろんのこと、時には付き人として、タニマチのお呼ばれにもお供し、カラオケまでつきあう。とにかく一日中いっしょに行動し、手取り足取りつきっきりで、しきたりや日本語を教えてもらうのである。そうした意味では、四六時中、日本語の先生が傍にいるようなものである。こうした毎日の修行の中で、礼儀、しきたり、上下関係、さらにはちゃんこ番など,兄弟子が教える事は山ほどある。このような環境のなかで1.聞く能力、2.話す能力をしっかりと身に付け持ち前のハングーリ精神も手伝って言語習得の理論にもかなって上達も早いのである。

高砂部屋の日本語教育
 外国人力士の三役第一号として高砂部屋にハワイから入門したジェシーの愛称で人気があった高見山関に日本語を教えたのが瀬戸内出身の元力士朝の海(本名:富岡守)である。現在は「株式会社朝の海」の社長で「ちゃんこの朝の海」として奄美市名瀬と鹿児島市でちゃんこ料理の店を開業し過去何十年も「ちゃんこ料理の横綱」に君臨し大成功をおさめている。朝の海は、相撲界最重量だった小錦(今はお腹の脂肪を90キロ手術でとり写真参照)や当時ハワイ出身の力士が高砂部屋に沢山いたがハワイ人力士同士で英語を使う事は禁止し違反した力士には相応の罰が与えられた、朝の海の日本語教授法はカードの単語帳を作り言葉の訓練をしたり日本語の歌を教えたりカラオケ、ちゃんこ料理の買い出し、商店街の人たちとの付き合いを通じて言葉を習得させ上位を目指す力士はハングーリ精神が強く日本語の上達も早かったと朝の海は言っていた。それに高見山関夫人には相撲部屋のおかみさん業について聞いてみました。夫人は外国人力士の言葉使いや間違った使い方をしていたら訂正したり外出して恥をかかないように特に敬語の使い方にも気を配ったとの事でした。相撲部屋のおかみさんは、親方夫人であると同時に、入門して来た力士たちすべての「おかみさん」でもある。ことに外国人力士にとっては、異郷の地で最も頼りがいのある母親でなければならない。日本語についても一つの言葉を繰り返し繰り返し教え同じ言葉を毎回3度以上は繰り返して言わせることにしたそうです。朝の海によれば相撲取り用語として力士だけに通用する言葉があり例えば「お金の事をお米」と言い【美人の事を金星」と言うが外で普通使う言葉と思い失敗する外国人力士も居たようです。

高砂部屋 大島部屋
高見山(元東関親方と筆者) 高見山夫人
小錦 朝の海
大島部屋
 また、大島部屋に入門した6人のモンゴル力士のうち、現在残っているは、旭天鵬、旭天山の二人。一人前の力士にするために厳しい日本語教育を担当したのが現役時代 ”南海のハブ” の愛称で人気があった花徳出身の旭道山関、旭道山は入門したモンゴル力士に早く日本語を覚えてもらうために、幼児用の「ひらがな、カタカナ本」を買って来てマスターさせた。その他にも、字をなぞって書く練習帳や、ボタンを押すと言葉が出るおもちゃなどいろいろと工夫したものを買って来て与えたという。そのなかでも一番良かったのは、同国人で固りがちであったモンゴル人力士に対し、自分一人で行動する必要性を厳しく指導したことである。アメリカの大学などでも日本人留学生たちがよく固まって食堂で日本語をしゃべりまくり食事をしている光景を目にした事が多かったがこのような学生は英会話の上達が遅く退学する人が多かった。
旭道山は、強引にモンゴル語の使用を禁止し、話すと罰金を科すというルールを設定したそうです。日本語を早く覚え関取にになるのだという固い決意を見せる兄弟子、こうした日本語にどっぷり漬からなければならない環境を与えたことが、結果的に日本語力の向上につながったことであろう。「6人のうち、二人が関取になっていますから、すごい確率ですよ。日本人だって、千人入門して、上に一人が上がれるかどうかですから」と旭道山は言っていた。

旭天鵬 旭鷲山と旭天鵬

あとがき
 大相撲界に入った外国人力士の日本語習得法を見てみると、一日の生活の中で実にいろいろな人との付き合いがある。親方、兄弟子、おかみさん、床山、行事、呼び出し、相撲教習所といった人びと、ちゃんこ料理の当番で近所の商店街のみなさんとの付き合いがある。場所が始まると相撲関係者、タニマチ、それから一般のファン等実に多くの日本人に囲まれ日本語を使う機会がおおいのである。わたしは、外国人教師で何十年も日本で生活し学校で教えているのに日本語が下手な人に何人にも会っている。我が郷土から出た朝の海、旭道山が外国人力士の日本語教育の先駆者としてかかわっていた事に同じ外国語教育に携わる者として二人のことを誇りに思う。

南オレゴン大学教育学部客員教授
国際教育交流部 副部長環太平洋担当
牧野三佐男 国際教育博士