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八重山酋長号=デッサン、保岡達也さん
平成20年5月29日(木)         
闘牛レポート 「名横綱 八重山酋長号

 闘牛の呼び名は、古くは飼い主の姓に牛を付けて○○牛又は俗称的に集落を指して何処

どこ牛、例えば手々牛などと言っていたが、それも時代と共に変化してきた。角構えを表

す○○トガイや○○カブラ、○○ボーヌ。戦闘や闘将、竜虎の文字を冠した如何にも強そ

うな名前もあれば、愛娘の名をとって○○ちゃん号なんて可愛らしいものも。なかには奇

をてらったレイザーラモンHGフゥオー!なんてものまで様々だ。

 そのなかにあって、この牛ほどピタリはまった牛名は他にないだろう。“八重山酋長”

ご存じ前全島一横綱、大福環境開発一号の沖縄時代の牛名。50年に一頭と称される名牛は

八重山産で御歳17歳、人間ならとうに80歳は過ぎているという。 マァ30ウシ20(馬

30年、牛20年)と父に聞いたことがある。農耕用牛馬の寿命をいうもので、これからす

ると彼はほぼ天寿に近いことになる。“酋長”を広辞苑で引けば、部族や氏族などの生活

集団の長、酋領。となっている。普段は穏やかな人格者でありながら、いざという時は本

領を発揮する。まさにこの牛にピッタリの名前、命名された方に敬意を表したい。

 八重山牛の特徴である大鎌角は、人が両手を丸く広げた様な構えで迫力満点。左右対称

なのも希で美角。体重1トン強は、南部牛やヨーロッパ系の血が入った近頃の横綱クラス

では小柄な部類となるが、かの神様牛、実熊が800sに満たなかったことから比べると島

牛としては過去最大級だろう。低重心で筋骨隆々の体躯も見事だ。

 沖縄、徳之島と股にかけて活躍し、双方で全島一の座についた彼の通算成績は22勝7

敗。7敗と聞いて疑問を抱かれるかも知れないが、一度の負けで闘争心を失う者もいれば、

何度でも自力を発揮するタイプも。沖縄では彼の対戦だけを取り上げた“酋長特集”のビ

デオが販売されているほど特別な存在。

 平成17年、当時徳之島闘牛界で無敵を誇る全島一横綱“福田喜和道一号”1,200sの

巨体を利した問答無用の速攻で、もはや島内に台頭する相手はなく、図らずも闘牛熱を冷

ましつつあった。「沖縄で全島一を張る酋長なら何とかなるかも知れない」「喜和道対酋

長が観てみたい」ファンの間でそんな話題が盛んな折、それは実現することとなった。

福岡で幅広く事業を展開する大福環境開発のS会長が沖縄から彼を連れてきたのだ。島の

一番ギリと沖縄の一番ギリ、強いのはどっち?同年5月3日、伊仙闘牛場。大観衆が息を

凝らして見つめるなか、闘牛巌流島決戦は予想に反して僅か19秒で決着。「あまりにも

体格が違い過ぎた」等々の声も漏れ聞こえたが、彼のこれまでの闘いをみると一概にそう

とも言えない。現に自分よりかなり大きな猛者達を何頭もねじ伏せて沖縄王者へと上りつ

めたのだから。時々の運、と言うべきだろう。その後、約1年半の休養を経、満を持して

全島一に再挑戦して見事王座に就いた。頭を下げた戦闘姿勢で、のそぉ〜っとリングイン

する姿は迫力満点、えもいわれぬトゥレ牛オーラに、初めての人もこの牛が別格であるこ

とは見て取れることだろう。「フッフゥ〜・ヲォ〜イヌガッ!」彼が入場した途端、闘牛

場が異様なまでの感嘆に包まれるこの瞬間がたまらない。 関係者でない私ですら思わず

「どうだっ!」そんな誇らしい気分になる。入口付近で一端立ち止まると、徐に両の前脚

を折り、自慢の大角を突き立て、顔や喉を地べたに擦りつける。砂遊びと呼ばれる自己顕

示行為は彼の専売特許でその様はまるで「ここからは誰も通さない・来るならこいっ」と

言わんばかりの迫力。それを終えて立ち上がり、リング中央で身構えれば迎撃準備は完了。

その後は微動だにせず相手を待つ、この時の彼の目つきは恐ろしく殺気立っている。対戦

相手の入場を確認すると直ちに敵に対して横向きに構えて睨みを利かす。並の相手ならそ

れだけで恐れをなして戦意喪失することもある。ゆっくりと角を合わせた途端、それまで

の動きとはうって変わり凄まじく俊敏な動きをみせる。相手が突いてくるとお返しに突き

返し、手のない相手とみるやその大角で相手の角をフック、単に角掛けなら大抵の牛がこ

なす技だが、彼のそれはここからが見せ場、右角で捕まえると左は鼻先で相手の顔面を押

さえつけてねじ曲げ、そこに己の前脚が浮き上がるほど全体重を乗せて押し込む。こうな

ったら最後、相手は後退するしかない。ぐいぐい押して行き、相手が柵を避けようとお尻

を振って押される向きを変えようとしていると判断するや、瞬時に左掛けに切り替える。

こんな芸当が出来る牛は彼をおいて他にはいない。右から左からアガンシャネ/カンシャ

ネ、自在の攻撃こそ酋長スペシャル。この時点で勝負有り、完全に横向きにされ柵に張り

付いた相手に、降参するほか道はない。為す術無く敗走する相手を追撃することもなく、

当然の如く佇む行儀の良さは実に立派、その姿は神々しくさえ見える。

 先だっての全島一決戦においては、果敢に挑みくる相手を一度は仕留めたかに見えた。

しかしながら寄る年波か、最後は次代を担う勇敢な若武者、コウダ技電龍王丸に道を譲る

かの如く自ら戦列を離れ、不動の大横綱は幕をひいた。

 数々の名勝負で私たち闘牛ファンを沸かせてくれた八重山酋長号に、心から感謝の意を

表し、エールを送りたい。「ワイドワイドッ酋長!!」

 大会翌日、偶然にもビデオ屋さんでS会長にお会いし、思わず「今回は残念でしたね」

と声をかける私に、会長は余裕の表情「全然残念じゃありませんよ。勝っても負けても良

し」とニッコリ笑った。



以上は、小さいころから、徳之島の闘牛を見守ってきた保岡達也さん(東京在住=花徳出身)から
寄せられた原文を掲載いしました。

前全島一横綱 
大福環境開発一号(八重山酋長号)名場面集
                                                 
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前足を曲げ顔を地面に擦り付ける独特の土俵入り
四連覇を成し遂げ堂々とした酋長伊藤観光ドーム
平成18年10月 目手久闘牛場(左=酋長、右=丸正建設蟹号)
平成19年1月 伊仙闘牛場(左=酋長)
平成19年5月 平土野闘牛場(右=酋長、左=右角が折れたチャレンジャー)
平成19年10月 伊藤観光ドーム(勝利を収めドームを出る酋長)
平成19年10月 ラッパを吹き鳴らし地元凱旋=面縄漁港
平成20年5月 平土野闘牛場(右=酋長、左=チャレンジャーのコウダ技電龍王丸のにらみ合い)
平成20年5月 平土野闘牛場(左=酋長、一瞬勝利かと?)
平成20年5月 平土野闘牛場(闘牛界の歴史に名をきざむでであろう酋長、お疲れ様!)